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偉人か悪魔か ジョンハンター展

11 10月

2019年 図書館貴重書展示 今年は ジョンハンターです!!

好評につき展示期間を延長しました  今年いっぱいやります!!

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目録(PDF)

実験医学の父

近代外科学、実験医学の父と称されるジョンハンターは、18世紀イギリスで活躍した外科医、解剖医です。

千体以上の人体解剖を行い、動物との比較検討を行い、各種の治療法の実験を行い、彼の登場により臨床医学は大きな飛躍をとげました。

ハンターは、子供時代は大の勉強嫌いだったものの、兄の解剖助手を務めたことがきっかけで解剖と研究にのめりこみ、外科医としても活躍し名声を得ました。真理を伝播させることに意識を向け、記録を取り続け、思考し、講座を開いて最新成果を教授し、論文を発表していきました。

ハンターは一方で、いわゆる「偉人」とは言い難い側面を持っていました。

ハンターの邸宅は、人でにぎわう華やかな表口と、夜中に得体の知れない積み荷が運ばれる不気味な裏口に分かれていました。彼は「手に入らない死体はない」と豪語するほどに、死体調達ビジネスを確立し、解剖体を仕入れ、切り刻み、標本を作り、研究をしていました。彼のこの側面は、物語『ジキル博士とハイド氏』のモデルとなりました。

当時の常識では、肉体は最後の審判のときによみがえるために不可欠であり、それを損壊させることは、復活を不可能にする、天国へ行けなくなるという冒涜行為でした。多くの富裕層や当の解剖医すら、自分の死後、誰にも解剖されないように生前から手配していたそうです。

当時の一般常識からかけ離れたハンターの探求精神は、その後の科学が到達していく未来を暗示していました。その研究内容は多岐に渡り、外科学、博物学、精神分析、歴史、生理学、発生学、歯科学を含みました。ダーウィンの「種の起源」より70年も前に進化論を見出していたといわれています。

ハンターの真の業績は、「観察して、推論して、実験する」という科学的手法を広めたことにあるといわれています。彼の門下から多くの研究者が誕生し、後世に影響を与えていきました。

ハンターと歯科医学

18世紀当時、歯科医療はまだ確立されておらず、抜歯は床屋が行うものでした。砂糖がヨーロッパにもたらされ、広く流通したことにより、虫歯が蔓延し、歯痛は脅威となっていました。

軍医を終えたハンターは、歯科医と組んで歯科医療に取り組みました。解剖学の知識を生かし、歯科治療のあらゆる面で助言を行い、医学の一分野としての歯科の研究に取り組みました。ハンターは初の書物「人の歯の博物学」を1771年と1778年の2回に分けて著しました。これは歯科における初の科学文献で、歯とあごに関する解剖学と病理学が解説されています。

ハンターの理解には間違いもありました。乳歯が永久歯に生え変わる時期を見誤っており、また、彼が広めた生体歯牙移植は、貧者から歯を買い取り(引き抜き)、患者の歯に移植するという、今では考えられない治療法でした。

それでも、歯垢の有害性に気付いて歯磨きを励行したり、果物、野菜を食べる効用を説いたり、それぞれの歯に名前を付けたことは、功績として後世に残るものです。

歯学部所蔵のハンターの貴重な本(展示資料です)

★人の歯の博物学  初版 1771年

オリジナルの英語版がバージョン違いで3冊あり、ラテン・オランダ語版(1773年)、ドイツ語版(1780年)があります。

★人の歯の博物学 、歯科疾患の実際論  第2版 1778年

オリジナルの英語版がバージョン違いで2冊あり、第2版の補遺版である「歯科疾患の実際論」の単行本版とアメリカ合衆国での初版本(1839年)があります。

★ジェームス・パーマー編 /ジョン・ハンターの業績   全4巻+図版 1835-1837年

ハンターの研究成果をまとめたもの。第1巻:ハンターの生涯 第2巻:歯科学・性病 第3巻:外科手術 第4巻:解剖学・博物という構成で、豊富な図版がついており、今回の展示では内容を撮影しPCで映写しています。

★エヴァラード・ホーム /比較解剖学講義 : ハンター博物館のコレクションより 全4巻 1814年

著者のホームは、ハンターの義弟で助手を務めていました。ハンターの死後は、ハンターの未発表論文を盗用、多数の論文を発表し、自らの出世につなげ、証拠を隠すためハンターの資料を焼き捨てたとされています。

ちょっとショックな画像

hanoisyoku

風刺画「歯の移植」トマス・ローランドソン作
当世風の身なりをした医者が、ぼろを着た煙突掃除夫の歯を抜いている。傍らには歯を抜かれるのを待つ子ども。裕福な客はふかふかの椅子に座って歯を移植されるのを待っている。

ハンターが広めた生体歯牙移植により、イギリスでは上記画像のような事態になってしまいました。ハンターは貧者は無料で、裕福な者からはふんだくるという姿勢で治療にあたっていましたが、歯の移植に関しては、貧乏人の歯を買い取り、患者(富裕者)に移植するという、今では考えられないことを行っていました。

 

図1

ジョシュア・レイノルズによる肖像画。右上の隅にある奇妙に長い脚の標本は、アイルランドの巨人バーンの標本。

ハンター談「生前どんな立場にあった人であれ、私が解剖したいと思えば手に入らない人物はいない」

アイルランドの巨人と呼ばれた有名人、チャールズ・バーンは、死に際に、解剖学者たちから逃れるために、遺体を船の鉛の棺に入れ、海に沈めてくれと葬儀屋に約束させました。が、ハンターは多額の報酬で葬儀屋を買収し、結局手に入れ解剖し、博物館のコレクションとしました。あまりにも騒動となっていたため、数年間は秘密にしていたということです。

参考資料(展示期間終了後貸出できます)

◆解剖医ジョンハンターの数奇な人生 / ウェンディ・ムーア著 矢野真千子訳 (歯学部資料No: L0000110650)

◆世にも奇妙な人体実験の歴史 / トレバー・ノートン著 赤根洋子訳 (歯学部資料No: L0000123187)

◆ハンター 人の歯の博物学 / 高山直秀訳 中原泉解説(歯学部資料No: L0000030392)

 
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投稿者: : 2019年10月11日 投稿先 展示, 歯学部の貴重書

 

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